編入試験 英語対策③

前回は英語試験対策として、基本的な文法や単語の習得の重要性を書きました。今回は英語試験対策における専門性について書いてみたいと思います。

法政治系の編入試験で課される英語試験では、以前に書いたように長文和訳やその読解問題が多くの大学で出題されます。そして、その文章は新聞や雑誌、専門書からのものが多用されます。法政治系の編入試験なので、引用される文章は法学や政治学に関連した内容が多いと言えます。もちろん、社会科学全般に関するもの、全く分野違いの内容で純粋に英語力を測定するものなどもあります。

しかし、総じて難関校になればなるほど専門性もあがります。ただし、誤解してはいけないのが、専門性がある英文が必ずしも単語や文法が難解であるわけではないということです。つまり、基本的な文法や単語で専門的な内容が語られている場合が多いということです。この点でも、英語の基本が重要であることが分かります。

では、専門性のある英語長文はどのように対策すればよいでしょうか?まずは、繰り返しになりますが、英語の実力をあげていくことが必要です。これまでに使ってきた単語帳や文法書、問題集などを漏れなくマスターしている程度まで反復し、何周も行うことです。これは、予備校やオンライン指導を受けることなく、今からでも独習できることです。逆に言えば、この独習なしに英語力は向上しません。予備校やオンライン指導の受講で自然と向上するものではありません。日頃からの地道な復習が英語力の向上には必要です。この点で、「雑な勉強」しかできない人は受験向きではありません。

さらに、編入試験では専門性のある英語を訳し読解する必要があります。そのためには、専門用語(technical term)の知識や内容の背景的知識がある方が圧倒的に優利です。例えば”checks and balance”、”tyranny of the majority”、”the rule of law”などの専門用語には定訳があります。「抑制と均衡」、「多数の専制」、「法の支配」です。どれも法学や政治学では、一定の意味を持った術語として用いられています。したがって、術語として訳せるだけではなく、それがどのような文脈で用いられるものか、その語が含意している内容(背景的知識)を理解していることも必要です。権力分立の下、三権が相互に牽制しつつも権力的な均衡を保つことで、国家の暴走を抑止するという目的を指して「抑制と均衡」という言葉は使用されます。多数決原理の弊害を指す「多数の専制」は、民主主義と少数者保護との関係で使用されるし、「法の支配」と法治主義の相違点の理解は、違憲審査制の意義に大きく関係しています。

これらは、法学や政治学に関連する語彙を記憶するとともに、その概念や背景を理解することで身につけることができます。そのためには、法学や政治学に関連する単語を覚えること(編入向けの市販されている教材を探すのは難しいですが)、日本語で法学や政治学の重要概念を理解し、日常的に新聞などで社会の仕組みや実情を理解しておくとよいでしょう。日本語で理解できないものが、英語で理解できるようになるわけではありませんから。

このように、基本となる英語力の上に専門知識が加わることで、専門性のある英語長文に対応できるようになります。編入試験対策として予備校を利用するメリットのひとつが、これらのことをまとめて行えるということでしょう。


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編入試験 英語対策②

前回は英語試験対策として、スケジュール感の重要性を書きました。今回は英語試験対策の続きとして、「基本」の重要性について書いてみたいと思います。

編入試験に限らず、英語学習では「基本」が重要であることが強調されます。ここで言う「基本」とは、文法に従って英語を読解し、日本語に訳出できることです。そのため、文法や単語の知識が「基本」にとっては重要となります。英語の受験勉強と言えば、単語を記憶し、文法を理解し、問題演習を反復するのもそのためでしょう。しかし、ここで注意しなければいけないのは、英語でコミュニケーションをとることができるようになることでも、綺麗な日本語に翻訳できることでもないということです。

編入試験も同様です。つまり、英文を文法に従って日本語に訳出できることが重要です。いわゆる直訳、逐語訳ができるという状態です。編入試験の英語試験で測定されるのは、多くの場合、英語を読んで内容を理解する力です。この力を身につけることの意義、また、この力と英語によるコミュニケーションとの関連性は、ここでは置いておきましょう。良し悪しを抜きにして、英語試験対策は、英語で文章を読んで理解する力を伸ばすことです。

前回も触れましたが、法政治系の編入試験では、長文の全訳、部分訳、その読解を求める問題が主流です。題材としては、新聞や雑誌の記事、専門書の一節など、試験のために書かれたものではなく、その内容に関心のある読者に向けて書かれたものが多用されます。したがって、難解な単語や例外的な文法などの知識ではなく、大学までに勉強してきた知識で事足ります。

次の文章は名古屋大学の編入試験の一節です。

“A huge expanse of flat land that Napoleonic France, imperial Germany, and Nazi Germany all crossed to strike at Russia itself, Ukraine serves as a buffer state of enormous strategic importance to Russia. No Russian leader would tolerate a military alliance that was Moscow’s mortal enemy until recently moving into Ukraine.”

訳出できるでしょうか?今から7年以上前の問題ですが、現在のウクライナ情勢を暗示しているような文章です。話を戻すと、理解してもらいたいことは、難しい単語や難解な文法は使用されていないということです。たしかに、構文が取りづらいということはあるかもしれませんが、これまでの学習で身についているはずの単語や文法で訳出できるということです。

長文であっても、一文、一文の積み重ねによって構成されます。そして、その一文も「基本的な単語や文法」から作られています。したがって、編入試験を念頭に英語試験対策として行う必要があるは、中学校から大学受験までに勉強した単語や文法を完全にマスターすることです。つまり、これまでの英語学習を総復習するということです。

これまで学習してきた内容を、どの程度マスターできているかは人によって異なります。そうであれば、英語試験対策として、まずは自分がどの程度の力があるのか、手元にあるこれまでに使ってきた単語帳や文法書、問題集などを使って復習してみることをお勧めします。「基本」が無い状態で過去問を解いたところで得られるものは少ないでしょう。


新年度準備講座(2023年2月25日より全6回)「法学~入門編~」

編入試験 英語対策①

今回は、編入試験における外国語試験の対策について書いてみます。外国語試験といってもほぼすべての方は英語で受験されるでしょうから、英語試験対策ということになります。

編入試験での英語試験対策を考える際に、まず意識しなければいけないのがタイムスケジュールです。どのような形式の試験が課されるにせよ、英語の力を上げていくのには時間がかかります。したがって、受験までどのぐらいの時間があって、その間にどのような状態にならなければいけないのかスケジュール感をもつことが大切です。

例えば、経済経営系の編入と比較するとまだ比較的少ないですが、法政治系でも、京都大学、神戸大学、金沢大学、上智大学、東洋大学のように、英語の試験の代わりにTOEICやTOEFLなどの英語民間試験のスコアを利用する大学が増えてきました。そのような大学を受験しようと思った場合、出願までに必要なスコアに達していなければいけません。大学によって異なりますが、出願に必要なスコアが設定されている場合もあります。高スコアに越したことはないですが、大切なのは出願までにスコアを準備しなければいけないということです。

英語民間試験を受験するためには、受験を申し込む必要があるし、受験してもすぐにスコアが手元に届くわけではありません。出願には正式なスコア書類が必要となりますが(詳細は各大学の募集要項で確認が必要です)、1か月程度の時間が必要となったりします。また、英語民間試験もコンスタントに開催されているわけでもありません。そうすると、志望校の受験日まではある程度の時間があるとしても、その出願準備はかなり早くから考えないといけなくなります

例えば9月の出願に間に合うようにスコアを揃えようと思ったとき、8月の試験を受験しても9月の出願に間に合わない可能性があります。そうだとすると、7月の受験が最後の受験となります。今は2月ですが、そうすると、あと数えるだけしか受験できないことになります。すでにスコアを持っている人はよいですが、これから取り掛かる人は、現時点でどの程度のスコアで、それをどのくらい上げていかないといけないのか、できるだけ早く把握する必要があります。労力をかけても必要なスコアに達することができなければ、それを編入試験に生かすことはできません(もちろん英語の勉強としては意味のあることですが)。

しかも、併願校がスコアを必要としない大学である場合、英語試験の対策に影響を及ぼしてしまうかもしれません。このような状態を避けるためにも、まずは今の自分の力を把握するために、直近の英語民間試験を受験することをお勧めします。もし、出願までに必要なスコアに到達できそうであれば、スコアアップの勉強を継続することは編入試験対策になります。しかし、それが難しそうなら、英語の試験が課される大学を受験するような方針にする方が良いでしょう。なぜなら、スコアアップのための勉強と英語試験対策は、英語を勉強するという点で共通していますが、全く同じではないからです。

幸い、法政治系ではスコアを利用しない大学は国公立大学、私立大学を問わず多くあります。また、スコアが振るわなくても、長文をしっかり訳出する訓練をすれば難関校を含め合格できます。実際、必ずしも難関校の合格者が高スコアをもっているわけではありません。

まずは、英語対策として、志望校は英語民間試験を利用するのか否か、いつまでに何を準備しなければいけないのか調べてみましょう。焦る必要はありません。「彼を知り己を知れば百戦殆からず」です。


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編入試験 論述対策(まとめ)

論述試験対策として、問題を自説展開型知識吐出型とに分けて説明しました。では、どのような大学が、どのような形で編入試験を実施しているでしょうか?

自説展開型の出題が多いのが、難関校では大阪大学名古屋大学(一次試験)北海道大学(2年次)など、広島大学などの中堅国公立大学です。このような大学では、課題文を読んだ後に、その内容の理解を測る問題とともに、それ関する自説(あなたの考え方)を展開させる問題が出題されます。したがって、課題文を読解する力、テーマに関して自説を展開する力が問われます。この点で、直接、知識をまとめて論述するというものではありません。ただし、課題文には法学、政治学に関するもの、広く社会科学全般に関するものが用いられるので、法学や政治学に関する知識があった方が正しく深く課題文を読解することができます。

他方で、知識吐出型の出題が多いのが、難関校では北海道大学(3年次)神戸大学(法学概論)筑波大学など、法政大学同志社大学などの私立大学です。このような大学では、法学や政治学の特定の事項について、その意義や定義、背景や内容の説明やそこから導き出されることの論述が求められます。したがって、法学や政治学の知識、その知識に基づいて導き出されることを正確に再現し、論述する力が問われます。この点で、知識がなければ合格はおぼつかないことになります。

以前も書きましたが、もちろん、このような分類は絶対的なものではありません。自説を展開するには知識が必要ですし、知識を再現してまとめるにしても、問題文を理解し、解釈し、解答として構成する力が必要となります。したがって、志望校によって程度の差はありますが、自説展開型と知識吐出型の両方の対策が必要でしょう

これまで3回にわたって編入試験における論述試験対策について書いてきました。読まれた方の中には、「とてもじゃないが書いてあることの全部は勉強できない」と思う人もいるでしょう。たしかにその通りです。特に編入試験は短期決戦です。また、編入試験の合否は、論述試験だけではなく、志望理由書や面接などの書類、外国語(英語)などと合わせて決まることはご存じのことと思います。もちろん、大学によってこれらのうちのどれが課されるのか、どの程度のウエイトで評価されるのかは異なります。そうであるからこそ、必要な対策のうちの何を優先して勉強するのかが大切になります

論述試験対策に限らず、編入試験では優先順位が大切です。時間や能力などが限られた下で、いかに合格に必要な学力に到達するか、常に優先順位を考えながら勉強していく必要があります。すべてを完全に勉強することが難しいのであれば、何をどの程度まで勉強すればよいのかを考えながら、学習計画を立てましょう。それに加えて、どんなに対策を知っていても、より重要なのはそれを実行することです。方法論はあくまで方法に過ぎず、目的を達成するためには、それを実行する必要があります。泳げるようになりたければ、泳ぎ方を知っているだけでは不十分です。むしろ、実際に繰り返し泳いでみることが必要です。


新年度準備講座(2023年2月25日より全6回)「法学~入門編~」