論述試験に必要な力

今回も次年度受験を目指す方に向けて、編入試験で課される「論述試験」について、その対策を考えてみたいと思います。まず、そもそも「論述試験」とはどのような試験のことをいうのでしょう?いわゆる空欄補充や多肢選択などの「客観テスト」とは異なる試験形式で、色々な説明の仕方が可能だと思います。

ただし、編入試験はもとより、司法試験やその他の資格試験、身近なところでは大学での定期試験でとられている論述試験に共通しているのは次の二点です。第一に、一定の分量の文章によって解答することが求められていること。第二に、正確な知識のみならず、一定の見解(解釈)を示す必要があることです。

例えば、「犬と猫のどちらを飼うか?」という問題を検討するとき(このような問題が出題される試験はないと思いますが)、「どちらを飼うか?」について文章の形で解答することが求められています。そして、「犬か猫か」ということについて理由とともに一定の主張をする必要があります。そのためには、「犬の特徴」「猫の特徴」「世話の手間」「飼うにあたっての条件」などについて一定の知識が必要となるでしょう。

ここから、論述試験対策として必要なことが分かります。第一に、文章の形で解答する必要があるので、正確な文章表現ができなければなりません。いわゆる「日本語力」です。これに欠けると、どんなに専門知識があったとしても、それを出題者(採点者)に伝えることができません。自分が思っているほど、自分の言いたいことは相手には伝わらないものです。文章を実際に書いて「日本語力」を鍛える必要があります。

第二に、問題を理解するために、また、問題に解答するために、一定の専門知識が必要となります。つまり、論述内容について一定の知識が必要です。「日本語力」があっても、知識がなければ、何も論述することができません。編入試験であれば基礎的な法学・政治学の知識、司法試験であれば法解釈についての知識、定期試験であれば試験範囲の知識が必要とされます。

最後に、論述すべきことを見出す力、言い換えると、問題文から「答えるべき問い」を発見する力が必要です。どんなに知識があっても、何が問われているか、何を論述するべきかが分からなければ、論文を書くことはできません。問題文が抽象的であればあるほど、自分自身で問題文から「問い」を構成することが求められます。

まとめると、論述試験対策として必要なことは、「日本語力の養成」「一定の知識の修得」「問題構成する練習」と言えるでしょう。これらは、答案練習(論述し解答する練習)を繰り返し行うことで身につけることができます。ただし、大切なのは、ただ論述を繰り返すのではなく、論述したものを評価してもらうことです。解答を採点するのはあなたではありません。あなた以外の人物です。しかも、その分野の専門知識をもっている人である場合がほとんどでしょう。そうであるなら、答案練習として書いたものを専門知識のある人に評価してもらい、形式や内容の正確性、表現や見解の妥当性についてアドバイスを受けることが必要です。そして、それを次の論述に生かしていくことで、論述試験対策となっていきます。


新年度準備講座(2023年2月25日より全6回)「法学~入門編~」

編入試験 論述対策(まとめ)

論述試験対策として、問題を自説展開型知識吐出型とに分けて説明しました。では、どのような大学が、どのような形で編入試験を実施しているでしょうか?

自説展開型の出題が多いのが、難関校では大阪大学名古屋大学(一次試験)北海道大学(2年次)など、広島大学などの中堅国公立大学です。このような大学では、課題文を読んだ後に、その内容の理解を測る問題とともに、それ関する自説(あなたの考え方)を展開させる問題が出題されます。したがって、課題文を読解する力、テーマに関して自説を展開する力が問われます。この点で、直接、知識をまとめて論述するというものではありません。ただし、課題文には法学、政治学に関するもの、広く社会科学全般に関するものが用いられるので、法学や政治学に関する知識があった方が正しく深く課題文を読解することができます。

他方で、知識吐出型の出題が多いのが、難関校では北海道大学(3年次)神戸大学(法学概論)筑波大学など、法政大学同志社大学などの私立大学です。このような大学では、法学や政治学の特定の事項について、その意義や定義、背景や内容の説明やそこから導き出されることの論述が求められます。したがって、法学や政治学の知識、その知識に基づいて導き出されることを正確に再現し、論述する力が問われます。この点で、知識がなければ合格はおぼつかないことになります。

以前も書きましたが、もちろん、このような分類は絶対的なものではありません。自説を展開するには知識が必要ですし、知識を再現してまとめるにしても、問題文を理解し、解釈し、解答として構成する力が必要となります。したがって、志望校によって程度の差はありますが、自説展開型と知識吐出型の両方の対策が必要でしょう

これまで3回にわたって編入試験における論述試験対策について書いてきました。読まれた方の中には、「とてもじゃないが書いてあることの全部は勉強できない」と思う人もいるでしょう。たしかにその通りです。特に編入試験は短期決戦です。また、編入試験の合否は、論述試験だけではなく、志望理由書や面接などの書類、外国語(英語)などと合わせて決まることはご存じのことと思います。もちろん、大学によってこれらのうちのどれが課されるのか、どの程度のウエイトで評価されるのかは異なります。そうであるからこそ、必要な対策のうちの何を優先して勉強するのかが大切になります

論述試験対策に限らず、編入試験では優先順位が大切です。時間や能力などが限られた下で、いかに合格に必要な学力に到達するか、常に優先順位を考えながら勉強していく必要があります。すべてを完全に勉強することが難しいのであれば、何をどの程度まで勉強すればよいのかを考えながら、学習計画を立てましょう。それに加えて、どんなに対策を知っていても、より重要なのはそれを実行することです。方法論はあくまで方法に過ぎず、目的を達成するためには、それを実行する必要があります。泳げるようになりたければ、泳ぎ方を知っているだけでは不十分です。むしろ、実際に繰り返し泳いでみることが必要です。


新年度準備講座(2023年2月25日より全6回)「法学~入門編~」