公認心理師受験資格取得に向けた編入学という挑戦

 私は中央ゼミナールの門を4月に叩いた。登録したきっかけは、公立中学校の特別支援学級補助員、加えて同中学校陸上部の外部指導員として働く中で、人々の心に寄り添う存在となる臨床心理士という資格に関心を抱き、その指定大学院受験をしようと思い至ったためである。

 私は法学部出身であるため、心理学については知識の下地が全くないところからのスタートとなった。基礎を一から学習を行うために、難色を示す両親に頭を下げて4月から中央ゼミナールへの登録を許してもらった。しかしながら、丁度その頃より、上述の指導員業務について年度が変わるとともに状況がガラリと様変わりしてしまった。競技経験のあるベテランの旧顧問の先生が異動されて、競技未経験の先生が顧問に就任されたことで、その方に代わって私が生徒の練習計画や、保護者会への出席、更には大会申し込み並びに引率等の部の運営にかかわる業務全般を実質的に担うこととなったのである。そのため、平日はもとより、生徒の大会引率のため中央ゼミナールのある高円寺から遠く離れた都内の競技場まで朝から丸一日かけて出かけてしまうため、8月の終わりまでは土日に開講されている講義すらまともに出席できない状態が続いてしまった。唯一全体の1/3ほど出席することができた伊藤順康先生の心理系大学院英語の講義も、論文和訳の遅着や単語練習が後手になってしまい、いったい何のために中央ゼミナールに登録しているのか、私は「自分を大切にできない。親に対して申し訳が立たない自分」に対し、ため息ばかりついてしまう日々を送っていた。
 そんな状態のまま、いよいよどの大学院を受験するかを決めていく夏期講習シーズンを迎えてしまった。慌てて論文対策の講座を受講してみたはいいものの、学習を進めれば進めるほどに基礎的な知識が身についていないことを実感した。追い込まれた私は、自分の現状を正直に話した上で、登録したコースの先生に個別相談の時間を幾度も設けて頂いた。その話し合いの中で見えてきたのが、今後教育業界の心理職として働く上で、これから先は公認心理師の資格が大きな意味を持つものとなるということであった。公認心理師とは、医療、教育、福祉、産業、司法の5領域においての活躍が期待される、心理士における初の国家資格である。求められる専門性が高い分、資格取得の為に、本合格体験記作成時点での法律では、大学学部で必要科目を全て修得した上で、大学院に進学(あるいは指定された機関にて2年以上就労)しなければならないとされている。つまり、大学学部での必要科目履修にかける期間を短くすることが、将来公認心理師の受験資格を得るための一番の近道となっているのだ。かくして、公認心理師の受験資格取得のため、大学学部への学士入学並びに編入学へと変更し、受験に向けた情報収集活動に力を注ぐこととなった。
 公認心理師の受験資格取得はどの大学の何学部で対応しているのか、中途入学生でも対応してもらえるのか、そもそも学士入学や編入学を行っているのか等、それらを知るための情報収集には、大いに手間と時間をかけた。メールや電話での問い合わせだけでなく、各大学のオープンキャンパスや進学説明会、時には研究室の個別訪問のアポイントのお願いをして、疑問に思ったことを先生に直接質問するなど、自分から積極的に動くことを心掛けた。その結果、大学毎に公認心理師受験資格に必要な25科目を取得できるカリキュラムを設けつつも、そのほとんどが大学4年間で完結することを念頭に置かれて作成されたものであり、学士入学生や編入学生への学び直しの機会が開かれているとは言い難いという、公認心理師に関わる大学の現状を目の当たりにした。
 数多くの大学が、中途入学学生の公認心理師受験資格に対する学習について否定、あるいは曖昧な回答に留める中、名古屋大学教育学部人間発達学科、大阪大学人間科学部教育学科目、帝京大学文学部心理学科、そして早稲田大学教育学部教育学科教育心理学専修においては、編入学生であっても公認心理師の受験資格取得を目指すことができるとわかった。中でも、名古屋大学は公認心理師に関わる担当教員から直にEメールでの回答を頂き、早稲田大学に至ってはEメールでのやり取りだけでなく、教育心理学専修所属の助手の方に個別の質問相談をする機会をわざわざ設けて頂くことができた。早稲田大学の先生とのお話を通して、そこには公認心理師コンソーシアムという取り組みがあり、希望する学生は教育心理学専修だけでなく、文学部心理学コース等の他学部、他学科で開講されている講義を受講することができ、学部・学科・専修の枠を超えて必要25科目の履修を目指すことのできる体制が整っていることを知ることができた。早稲田大学を含む上記のいずれの大学においても、学部生だけでなく大学院生や教職員と共に、学生や社会人が教育に関連した心理学・あるいは教育心理学などやりたいことができる場であると知り、私はこの中のどの大学であっても、将来心理に関する研究的な視点と実践的な力を養うことができると考え、上記の4つの大学を受験校に決めた。
 新しい受験校が決まり、今度は志望理由書の作成に取り掛かかった。出願期間がどれもこれも重なっており、大学によっては準備に充てられる期間が2週間程しかないところもあった。当初の私の志望理由書は、どこかの大学のHPから引用してきたような堅苦しい表現ばかりで、「この大学に行きたいリアルな理由」が薄かった。限られた時間の中で最善を尽くすには、恥じらいも面子も捨てて担当の先生から、何度も添削して頂く必要があったが、一方でその頃は、例の陸上部にて秋の大会に向けた練習が大詰めを迎えており、またしても土日の中央ゼミナールから遠ざかってしまっていた。中には、先生に殆どお見せできないまま慌てて作成し、尚且つギリギリの必着に間に合わせるため、新幹線に飛び乗りその大学の所在地にある郵便局まで駆け込んだこともあった。そうした反省を活かし、時間に余裕をもって作成できた志望理由書は、先生にじっくりと添削して頂くことができ、最終的には「素晴らしい!!言うことなしです(^^)」という評価を頂戴できるものを完成させることが出来た。
 次に、筆記試験の勉強に取り掛かった。とはいえ、このとき既にどの大学も試験本番まで残り1ヶ月ほどとなっていたため、英語と専門基礎科目の対策としては、溜めてしまった「心理系学院英語」「大学院臨床心理学論文」の復習と遅着並びに再提出を消化することに力を注いだ。小論文については、「大学院基礎心理学論文」の復習と遅着並びに再提出(といっても、受付期間が過ぎてしまったために提出できていない)に取り組みつつ、教育学部での受験がいくつかあったため、その分野における重要単語を調べ、ノートにまとめる作業を行った。また、過去問題が手に入ったものについては、一通り解き傾向を確認する程度に留めた(などと格好のいいことを言ってみるが、正直やり切れなかった)。
 こうして、付け焼刃と言われても仕方の無い様な受験勉強を経て入学試験を終えた結果、なんとか早稲田大学教育学部教育学科教育心理学専修と帝京大学文学部心理学科に合格することが出来た。心理学や教育学の知識はもとより、勉強時間そのものが他の受験者の皆様よりも圧倒的に不足しており、仕事を続けながら合格を勝ち取ることは、当初の自分が想定していた以上に並大抵のことではなかった。それでもかろうじて乗り越えることができたのは、私のわがままを許してくれた両親や、受験直前期になってからの進路変更にも関わらず、大変丁寧に進路相談や志望理由書、面接練習を指導して下さった先生方に対し、何も結果が残せなければ申し訳が立たないという、好適に捉えれば使命感に突き動かされたからであった。
 この合格体験記を作成している現在でも、未だに自分が合格出来たという実感が持てないままでいる。しかし、例え1年も満たない限られた時間であったとしても、また仕事との両立という条件下であったとしても、一つのことに熱意を集中すれば、思いがけない功績を残すことができるということを知った。今回の受験から得た収穫(というか反省)を糧として、将来の自己実現に繋げていく所存である。
 これを読んでいらっしゃる中央ゼミナールの受講生や受講を検討されている皆様、長らくお付き合い頂きまして、誠にありがとうございました。最後までお読みになられた方、おそらくわけが分からないと思われたことでしょう。私にもわけが分かりません。ですが、私のような受験生であっても、自分の希望するものに向けて真剣になれば、何とかなることを感じて頂けましたら幸いです。また、中央ゼミナールのスタッフの皆様に置かれましては、全く受験勉強に専念できないようなあまりにも不肖すぎる私という受講生を、暖かく見守って頂きまして、誠にありがとうございました。今回の受験は、私にとっては公認心理師の受験資格取得に向けた第一歩です。2~3年後には大学院受験が控えておりますので、もしまた1人で戦うことが難しい状況であれば、お力添えを頂けましたら幸いです。

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