一年間立ち止まった意味

 最初に結論から言おう。この1年間、立ち止まってよかった。それは、編入試験に合格出来たからではない。合否を超えた「大切なもの」を手に入れることが出来たからである。そのことについて、以下に述べようと思う。前もって言っておくが、私の体験記を読むことで貴方の合格に役立つことはあまり期待できない。試験対策についての勉強法を知りたければ、先生に聞くか、あるいは他の方の体験記を読むことをお勧めする。もし、貴方がこの1年を編入の勉強に捧げるということについて悩んでいるのであれば少し役立つかもしれない。
 私が編入を決めたのは、大学2年の冬である。教員を目指して教育学部に入ったのだが、授業を受けたり、実習を行ったりする中で、教員になることを迷い始めた。その時に編入という選択肢を知り、3年次を休学して中央ゼミナールに入学することを決めた。プレ学期から受講したのだが、その時に出会った二人の先生に結局最後までお世話になることになった。また、その先生2人に私は最も感謝している。小論文の佐藤先生と英語の千頭和先生である。佐藤先生には、授業はもちろん、面談で最もお世話になった。勉強法や小論文の添削、志望理由書、面接試験対策など、サポートしてもらった部分はかなり多い。佐藤先生の授業を受ける中で、社会学という学問に興味を持ち、社会学を学べる大学へ編入しようと決めたのである。入学当初はエッセイのような小論文を書いていたが、この1年を通し、理論、具体例、社会学的考察を関連付けながら小論文と呼べるレベルの文章が書けたと自分では思っている。社会学という学問の扉を開いてくれたこと、小論文を書けるレベルにしてくれたこと、その他合格への多くをサポートしてくれたことに対して大変感謝している。次に英語の千頭和先生。この先生からは、編入後、さらには就職してからの今後の人生に大きく影響することを得ることが出来た。千頭和先生の指導法には賛否両論あるが、私は大変よかったと思っている。英語の部分では、中学レベルの部分から文法事項を学び直すことで、時間はかかったが上位国立大学の英文を読めるレベルまでになった。参考書ももちろん何冊も取り組んだが、参考書に書いてあることを理解できるようになったのは、間違いなく千頭和先生が基礎から反復して厳しく指導してくれたからだと私は思っている。しかし、千頭和先生から学んだのは英語よりも、姿勢の部分である。プレ学期から一年間、千頭和先生の授業を取り続けたが、最後まで同じことを口酸っぱく言い続けていた。それが、「矢印を太くしろ」ということである。矢印を太くする、というのは簡単にいえば関心を広げるということである。私はこの一年、編入試験への勉強をすることと同じくらいに、編入試験には直接役立たないことへの学びにも力を入れた。例えば、一年間で電子書籍60冊程度読んだ。その内容は多岐に渡り、社会学とは関係のない経済学の本、ビジネスの本、哲学の本、歴史の本などジャンルは様々である。こういったことは直接合格には繋がらない。しかし、矢印を太くすることに力を入れてよかったと心から思う。矢印を太くするということは、編入試験の先にある、編入後の勉強、就職、就職後の取り組みに繋がっている。いかにいい大学へ編入したからといって、矢印が太くなければ、たかが編入と馬鹿にされてしまう。それに、編入試験への対策が出来ても、しっかりとした自力がなければ編入後に潰れてしまうだろう。編入試験対策と並行しながら矢印を太くする取り組みをしたお陰で、私は編入後も力を発揮できる自信がある。一年間立ち止まったことで、2年生の時には見えなかったことが見えるようになり、感じられなかったことが感じられるようになった。矢印を太くしろ、と言い続けてくれた千頭和先生に大変感謝している。
 編入試験とは、合格する者もいれば、不合格の者もいる。私自身も、千葉大と北海道大には合格できたが、残念ながら不合格になった大学もある。しかし、その現実を受け入れつつも、前を向いている自分がいる。それは、自力がついたと自信を持って言えるからだ。社会学の小論文や英語という試験科目はもちろん、他分野への関心や、これからのビジョン設計、学習の姿勢など明らかに1年前より成長した。こうしたことを引っさげて、編入先では研究をして行きたいと思っている。本当の勝負はここからである。これを読んでくれた編入志望者にも、編入だけがゴールにならないように常にアンテナを張って、矢印を太くして欲しい。そうすれば、編入の勉強に対してモチベーションも上がるだろうし、何よりも一年後の自分を大きくすることができる。1年という時間を犠牲にすることを意識して欲しい。そして、一年間立ち止まってよかったと合否に関わらず言えるくらい、多くのことに手を伸ばし、多くを考え、精一杯手を動かして欲しい。きっと大切な何かを手に入れることができるはずだ。
 最後になりますが、中央ゼミナールの先生方に心よりお礼を申し上げます。本当にありがとうございました。

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