遠回りも悪くない

 編入試験で初めて北海道大学を訪れた。『ここが北大か…』雪がある中、足元に気をつけて試験会場に向かった。
 筆記試験会場には30人ほどいた。『これは二段階選抜になるぞ』と、より一層力を入れて筆記試験に挑んだ。
 二日目。『一次は受かってる』『絶対受かってて』と何度唱えたことだろうか、緊張しすぎて朝食の海鮮丼の甘エビが喉を通らなかった。勿体ないし、完食したかったが、これ以上食べると吐くと思ったので残してしまった。こんなに緊張すると思いもしなかった。『筆記はできた、大丈夫』
 掲示板に既に結果が貼り出されていた。無事、一次合格。「浪人もさせてくれて、短大に行かせてくれて、勉強させてくれてありがとう。今までやってきたことが少し報われた気がする。一次は通過点だし、二次の面接も頑張ってくるね」と、父に報告をした。「頑張ってらっしやい」と応援してくれた。父も涙をこらえていたような声だった。
 面接。予定時間よりずいぶん押していた。面接では、志望理由もクラーク博士のことも聞かれなかった。予想していない質問が飛んできて、私は適当に答えるしかなかった。黙ることは一番やってはいけないことだと考えていた。面接はあっという間に終わってしまった。伝えたいことは全て伝えられなかったし、説得力をもたせて話すこともできなかったし、勉強不足で適当に答えてしまったし、なにもかも上手くいかなかった。『落ちたな』そう確信した。
 編入学試験に関し、特にお世話になった姉にお礼の連絡を入れた。「…ここまできたら合格しなくたっていい。とてもいい経験をしたな…」と諦めが早い私に、姉は、「面接で細かく聞かれるということは、あなたの研究テーマに興味があるからであって、決して合格の見込みがないことはない。とにかく、頑張ったね。お疲れさま」と話してくれた。
 北海道大学教育学部合否の結果は郵送だった。封筒を開け、“寮のご案内”が見えた。「えっ、受かってるんですけど…」横になってテレビを見ていた母が、起き上がって驚きを隠せない様子でいた。「あなたが行きたいところに行けたことが私は嬉しい」と母は泣いて喜んでくれた。
 1、2週間経ち、落ち着き始めた今、合格したのは本当に嬉しいが、比較的難易度の低い筆記、あんなにぼろぼろだった面接、なぜ合格したのか気になり、成績開示の申請をしているところである。
 私は高校受験も、現役の大学受験も、浪人の大学受験も、全て第一志望校に合格したことがなかった。今回の編入試験でやっと実を結ぶことができた。長かった。きっと、“第一志望校に合格する”ことの喜びは人一倍大きいであろう。少しだけ遠回りをしたが、浪人、短大生活があったからこそ、自分が本当にやりたいこと、学びたいことを見つけることができた。今まで私のことを見捨てないで勉強を教えてくれて、志望理由書の添削までしてくれた姉。私の進む道を尊重して応援してくれた両親。家族には感謝の意しかない。
 大学の先生を始め、高校時代、浪人時代にお世話になった先生、ずっと応援してくれた友達、これから編入報告をしていく予定である。笑顔でおめでとうと言ってくれる人が周りにいることが、とてもとても幸せである。
 私は今、やっと、スタートラインに立つことができたのである。これからもより一層精進して参りたい。

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