崖っぷちからの大逆転

 まず初めに、前半の内容がかなり生々しいものであることをご承知おきください。
 2015年3月30日。センター得点率54%。生物53点、数学200点中54点、英語143点、リスニング32点と撃沈しながらも、ダメ元で受けた茨城大学に落ち、明治大学にも落ちてから最後の望みをかけていた東京農大農学部農学科の補欠繰り上げが終了したことを知り、同時に短大への進学が確定しました。もちろん他の私立も選択肢としてはありましたが、当時の私は全く魅力を感じず、どうせなら遠回りしてでも農大にと今の道を選びました。そうはしたものの、知人に進学先を聞かれても「東京か神奈川のどこかにある理系大学」としか答えられませんでした。厳密にいえば元の在籍校は大学とは言えないのにも拘わらず、です。
 あまり詳しいことを書くとまずいこともあるので、多少ぼかして書きますが、私は高校時代に全国レベルの部活動に所属していた経験があり、高1から大会のメンバーに選ばれ高3まで主力として活動していました。だからといって勉強をおろそかにはしたくなく、試験では校内上位5%に入ったこともあり、3年間の平均評定は4.0でした。なぜ推薦を使わなかったのかという声が聞こえてきそうですが、部活動の成績と小論文・面接だけで大学に行くことは甘えなのではという頑固な考えがあったからです。ちなみに出身校は偏差値60前半のMARCH合格者もかなり出るような高校です。高3の10月末に部活動を引退するまで、長期休暇もほぼ休みなしで、週7は当たり前、考査期間も1日中練習というとてもハードな3年間でした。
 私は物事を一生懸命にやらない人間が嫌いで、評定はそれなりにあるものの、あくまで私から見た印象ですが部活動は手を抜き、それでいて部活動の成績を使って(賞状のコピーなどを出願資料に同封して)、AOや推薦で第一志望に進学した人がずっと許せませんでした。そのような今思えば非常に不純な思いも編入を決意した理由の一つにあります。こいつらを見返してやりたいという思いがありました。部活動に一生懸命でない人たちに苛立っていたからか、駅から高校までの道では吐き気や過呼吸に襲われ、引退直前には拒食状態に陥り、5日で4kg減ったこともありました。
 4年制大学全落ちが決まってからの私は荒れに荒れていました。まず無気力感に襲われ、到底学生生活を楽しめるという状況ではありませんでした。あれだけ頑張ったのにこの結果は到底受け入れられない。そんな状態でした。周りを見渡せば推薦入学者ばかり、農業高校出身の人も多く、講義に対するモチベーションも極めて低いという世界がありました。講義中の私語は当然、机上には携帯、中にはゲームに興じている連中もいました。その現実が私をさらに苦しめ、「こんな環境にしか身を置けない自分に価値なんてない」と思うこともありました。次第に学習意欲も低下し、不眠、拒食、過食など、最悪の健康状態にまで陥りました。同時に、自分は目の前の物事に対して真剣に取り組んでいないという自己嫌悪にも陷り、それはもう「最悪」という二文字に尽きる状況でした。このままでは編入すら危うくなると危機感を覚え、学校の校医に紹介状を書いてもらって心療内科を受診しました。どうにか日常生活はできていたので、診断は「軽度の抑うつ状態」。このような状況で1年次を過ごしました。
 農大の短期大学部には系列校推薦といって、成績優秀者が優先的に東京農大に面接のみで編入できるという制度があります。私もそれを狙っていましたが、1年次の成績(GPA)が2.7と奮わずに結局志願した学科にGPA3を超える人が殺到し、私は系列校推薦を逃しました。それが6月24日のことです。「あなたは選考の結果推薦されないことになりましたので通知いたします。」この一文により完全に心を折られ結果通知はすぐに破り捨てました。そして同時に、心身共に不安定な条件下で筆記試験を受けざるを得なくなりました。中ゼミに入る前も大学受験で使っていた参考書を使って勉強してはいましたが、自力での勉強に限界を感じて夏期講習だけ中ゼミに通わせてもらうことにしました。少しでも両親に負担をかけまいと定期代、テキスト代、受験料と出願に係る費用、交通費だけはアルバイトで貯めたお金を使いました。受講料はさすがに限界があり、頼み込んで両親に出してもらうようお願いしました。
 夏期講習では試験科目である英語、生物、小論文の講座を受講しました。私が受けた学科の試験は90分で3科目をこなさねばならないという非常にハードな試験です。英語は和訳、生物は記述がメインであり、大学受験を不完全燃焼のまま終えた私には、そのような形式に対処できるのかという不安を強く感じていました。小論文にも不安はありましたが、長先生の丁寧なご指導のおかげで高評価を頂ける答案を書けるようになりました。理系の添削英語では佐々木先生、添削英作文、添削英語BS講座では山崎先生にお世話になりました。私が構文把握や単語熟語の知識不足に悩み失速していた時に「まずは自信を持つこと。そして自信は努力から生まれます。」ですとか、「英語に関しては合格レベルですから」などと山崎先生に言っていただいたことは本当に心強かったです。生物では大森先生に記述問題に対応する技術を教えていただきました。どの講座に関しても受講後にすぐ復習を行い、再提出がある英語と小論文では再提出制度を最大限に利用しました。生物では答案提出がなかったので、高校時代から使っているセミナー生物や教科書に載っている記述問題をひたすら、量にして200問以上書けるようになるまで練習しました。もちろん最初はほぼ書けませんでしたが、模範解答を真似て書くうちに理解できるようになり、最終的に何も見ず書けるようになりました。夏期講習の前半は自分で進める記述対策がうま<、いかず、不合格になってしまう自分しか想像できませんでしたが、自習室で年齢に関係なく目標に向かって努力している他の人たちに触発され、私も負けじとひたすら問題を解き続けました。
 9月14日。大学のホームページで志願者数が発表されました。定員5人に対し志願者は3人。一安心しましたが、一定の足切りはあると考えて気を抜くことはしませんでした。試験1週間前からは復習に専念し、抜け落ちていた知識を補強していました。量をこなした方がいいという人もいますが、私は新しいものに手をつけると不安になってしまい、高3時には直前期になっても新しい問題に手をつけて失敗したので今回は復習に徹するというスタイルを貫きました。
 試験当日までの間はメンタルのコントロールが非常に大変でした。私はとてもメンタルが弱いので、少し行き詰まるとすぐに休んでしまって思うように勉強できませんでした。しかし、その度にこれまでやってきたこと、何度か行きたい研究室に足を運んだことを思い出していました。また、今回の受験を通して、他人の存在がいかに大切かということを痛感しました。春で20歳になっていた私は、成人直後から嫌なことがあるとついやけ酒をしてしまっていました。せめて7月から試験が終わるまでは禁酒しようと決めていましたが、勉強が全く手につかなくなったときに、学科の友人や知り合いにサシ飲みに付き合ってもらうという自分への一種の裏切りをしてしまいました。それでもそのあとはペースを戻して勉強できたので、合格した今考えればこれはこれでいいのかな、と思っています。期間中何度周りの人に心理的な面で助けてもらい、その度に自分自身を取り戻せたかわかりません。
 様々な波乱を経て迎えた9月21日、試験当日。時間に余裕を持って試験会場に向かい、電車内では立ちながらでも読める教科書、会場に着いてからは添削英語の再提出答案や小論文の答案を見て成功するイメージを作っていました。中ゼミで、自力でやってきたことを思い出して全ての科目に対応できました。
 小論文では、学科にある研究室の研究内容に触れて書くものだったので、事前に研究室について調べていた私にとってはラッキーな小論文でした。このように、思わぬところで得をすることもあるので、受けたい大学については入念に調べておくべきだと思います。午後の面接も、面談で粕谷先生に言っていただいたことを意識したことで自分の言いたいことを伝えることができました。
 そして9月30日、合格発表。すぐにインターネットで確認しました。合格の2文字を見た瞬間に全てが報われたという思いになりました。翌日、期間中休部させてもらっていた部活動の人たち、辛い時期に話を聞いてくれた高校の人たち、家族、高校でお世話になった先生方に合格したことと感謝の思いを伝え、後日、中高でお世話になっていた学習塾にも合格報告に行きました。
 当日出題された問題が聞いていた以上に簡単だったので、夏こんなに勉強しなくても受かったのではと思いましたが、合格者数を確認したところ1人落ちていたので、やはり一定のボーダーはあったのでしょう。受かるために勉強したというのもありますが今回の受験勉強を通して記述や和訳に弱かった高校時代の、自分に打ち勝つこともできたように思えます。
 余談になりますが、私が不安を感じて勉強が手につかなくなった時に見ていた言葉を紹介します。国民的アーティスト、いきものがかりのリーダー・水野良樹さんが明治大学での仮面浪人を経て一橋大学に合格されたときのことを回想して書かれたものです。
“代々木ゼミナールの会報で、ある現代文の講師の一言が書いてありました。
「人間は努力した分だけ幸福になれる。それ以上でもそれ以下でもない。」
やったら、やったぶんだけ返ってきて、やらなかったら、それだけのこと。
そういうフェアな考え方。
そういう社会をフェアに捉える姿勢。
それに救われたんです。”
 辛くなるたびにこの文章を読んでは心を落ち着かせていました。ここまで読んでいただいて何となく勘づくとは思いますが、私は生粋の男です。部活動内での問題、大学受験の失敗により、かつてどん底まで落ちぶれた豆腐メンタルです。そんな私が1つの目標を達成できたのですから、厳しい状況から編入を目指そうという方も必ず成功できるはずです。心身不調のために勉強が追いつかなかったという理由もあり、国立は断念しましたが、心身のバランスを崩したからこそ(と言うと語弊がありますが)見つけられた「福祉園芸」という道をしっかり歩み、過去の私のように辛い思いをされている方たちを対象とした「植物が人に与える良い影響」について来年から学んでいきたいと思います。
 最後になりますが、添削英語、英作文の佐々木先生、山崎先生、英文法講座の鈴木先生、生物の大森先生、小論文の長先生、面談をしてくださった粕谷先生、そしてステップアップサポート部の皆さんに感謝申し上げます。ありがとうございました。

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