強制退学、背水の陣

 「残念ながら、あなたは今年度を持って退学です」
耳元に当てていたスマートフォンが砕け散るかと思った。退学?いったい何の話だというのか。私が元いた大学から無慈悲すぎる通告を受けたのは、もう半年以上前のことである。
 コツコツとした努力が苦手なためか、いつしか身に付けた要領の良さでなんとか切り抜けてきた中学・高校時代の受験勉強。在籍していた中高一貫校はさほど有名ではなかったものの驚くほど教育熱心で、結果として自分の実力以上の大学進学へと導いてくれた。大学に入ればもう安心!きちんと授業に出席し試験を受けてさえいればきっとなんとかなるだろう…そんな慢心が2年間続き、冒頭へと至る。
 確かに毎日の勉強にはさほど熱意を注げていなかったし、成績もよいとは言えないものだったが、きちんと単位は取得していたからまさか退学なんてありえるわけが!そう思ったのも束の間、冷や汗とともに浮かび上がってきたのは、何度もすれ違っていたはずなのにいつの間にか姿を見なくなった生徒たちの姿である。
 私の学部は新設されてから間もなく、教師たちは実績を残すことに必死だった。授業の選択肢はほぼゼロに等しく、成績は厳しく、先輩たちに楽な科目を聞くという新入生の恒例行事も情報不足で不可能。実績を残すにはとにかく厳しくすればいい!という上層部の安易な考えに、キャンパスライフを打ち砕かれる若者たち。これこそが“消える生徒”の真相だったのだ。この大学を体現するものと言えば豪華な設備、高い学費、厳しすぎる成績制度、消える生徒…皮肉なことに私は、自分が希望を抱いて入学した大学が深すぎる闇を抱えていることに“退学勧告を受けてから”気が付いたのである。
 路頭に迷うとはまさにこのこと。今後私はどのように生きていけばよいのだろうか。
大学側から辞めろと言われているのだから当然学生生活に戻ることは出来ないし、ただでさえ就職難が問題になっている現代、文系で尖った専門知識もない私がこのまま安定した職に就けるとも思えない。ぼやける視界に飛び込んできたのは、両親が見つけてくれた大学編入制度、そして「中央ゼミナール」の存在であった。
 いろいろと調べていくうちに、大学編入は私のような若者が再び学生生活を送るのに最適なシステムであること、元いた大学での経験が決して無駄にならないこと、そして自習だけではカバーしきれない情報量が必要になることを知った。学生ではなくなった私には時間がたっぷりあったので、短期留学で英語力を養った後に中央ゼミナールで編入試験の本格的な対策をしていくことに決めたのである。
 右も左も分からぬまま飛び込んだ短期留学の世界は想像以上に楽しいもので、老若男女国籍問わずたくさんの友人たちとともに切磋琢磨できる環境であった。
英語に対する抵抗がすっかりなくなってきた私に、思わぬ朗報が舞い込む。自分が志望する大学には英語試験の免除制度があり、偶然にも留学中に取得していたTOEICの点数が必要点を上回っていたのだ。となると、帰国後に必要となるのはまったくもって知識のない小論文の技術、そして面接対策。まさに中ゼミが売りとするものだった。
 文章を書くことが好きでかつ趣味でもある自分なら、小論文なんて多少の勉強で何とかなるはず!中ゼミの授業で初めて小論文を添削してもらったあと、その場で言葉を失ったのは言うまでもない。赤ペンで随所に書き込まれたダメ出しの数々、知識不足の露見。大きくショックを受けたものの、これは確実に独学では得られなかった感情だ!と逆に前向きな気持ちになり、見覚えのないカタカナと漢字の単語で埋め尽くされた手書きの授業プリントを繰り返しノートにまとめた。小論文はやればやるほど覚えなければならないことが増えていく気がして不安になることもあったが、そんな時は潤沢に揃えられた過去問から問題傾向を読み取り、頭に入れる知識を一部分に絞るなどして柔軟に対応した。また本番が近づいて少しでも気になることがあれば個人面談で先生方に話を聞いてもらい、当日心にのしかかるものを少しでも払拭しようと中ゼミに足を運んだものである。
 大学から突然の退学を命じられ、短期留学に行き、中ゼミに通い…
私が編入試験合格に至るまでの道筋は大きく分けてこの3つだったが、実は短期留学と中ゼミの間に大きなイベントが挟まっている。編入経験者、そして中ゼミの先生方も多くが必ず行っておけと口にする…そう、オープンキャンパスである。大学を辞めさせられてしまったこと、その直後に短期留学に行ったこと、これから編入試験に向けて本格的な対策を進めていくこと。何もかもを包み隠さず話した私は入学後に選択するゼミまで勧めて頂き、この大学に入学したいと強く思うようになる。そしてその思いは、“合格”この二文字となって私のもとに現れるのであった。
 私の大学編入は失敗が学生生活の消滅を意味する、まさに“背水の陣”であったわけだが、限界まで追い詰められてこそようやく本領を発揮する自分にとって非常にいい経験であったと言えるだろう。
 今後編入学で新たな学生生活を手にしようと考えるすべての皆さんにエールを送るとともに、数々の手助けをしてくださった中ゼミの先生方、そしてどんな状況でも前向きに応援し続けてくれた両親に心から感謝申し上げます。

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