早慶と編入試験

6月中旬のある眠たい午後、中ゼミでのこと。編入試験の情報収集を主な仕事にしているババさんから、「宍戸さん、早稲田の商学部が4大生や短大生を対象にして編入試験をやるってよ。よかったね!」と声がかかった。いっぺんに眠気が覚めた。「えっ? ホント? やった?。でも待てよ。社会科学部みたいに受験資格にトフルや英検の成績が含まれているんじゃないでしょうね?」「いえいえ大丈夫。従来から行っていた学士編入の受験資格が、大学2年以上在学(見込み)者・短大卒業(見込み)者・高等専門学校卒業(見込み)者まで拡大したということみたい。」 つまり、従来から中ゼミで対応してきた早稲田商学部対策でよいということか。よかった…。要項を見るまでは決して安心はできないが。
 このニュ?スが私にとってどんなに嬉しいことか、なかなかわかってもらえないだろう。私が編入の指導を始めた頃は、「独り言」にも書いてきたように、まだ、大学によっては「編入って何?」という時代だった。その後、多くの大学が編入試験を始めるようになり、やっと、編入という制度があることが世間に知られるようになってきた。しかし、早慶については、早稲田は第二文学部を除くと学士編入のみの実施、慶應は自学の通信教育からの編入と内部での学士編入・転部のみの実施で外部からは全く受け入れなしという状況。早慶で本格的に編入が始まらなければ、編入が大学受験で市民権を得たとは言えない…というのが、私の長年の思いだったのだ。


  それが、一昨年度から早稲田の社会科学部で学士以外を対象に受け入れが始まった。だが、社会科学部は二文と同じ夜間学部のイメ?ジが強い。また、受験資格に語学検定に関することが規定されるなど、従来の編入試験とは異なるハ?ドルがあった。本当に変わり始めたと感じたのは昨年度のこと。驚いたことに慶應義塾大学理工学部で編入試験が開始された。慶應については、慶應短大から慶應大学看護学部となったことで、看護学部で外部からの学士編入が行われることは知っていた。しかし、新設の学部で編入枠を設置するのは最近では当たり前になっており、理工学部の場合とは状況が異なる。他大の学生を受け入れる理工学部での編入スタ?トは、「あの慶應がとうとう…」という意味で感慨深いものがあった。
  率直なところ、慶應が年明けの3月に理工学部で編入を実施すること自体は、当校の学生にとってメリットがあまりなかった。理工系の学生は国立狙いが多く、国立理系の試験時期が6・7月のため夏までに受験を終えてしまい、秋・冬を越して春先まで受験を続ける人はごく少ないのである。しかし、これを手始めに、他の学部でも編入を開始する可能性がでてきたのが嬉しい。今後は情報収集にも力が入るだろう。慶應には編入に関する情報を入手するため毎年電話を入れているが、今までは「うちは外部からの編入はやっていませんから」の一言で終わりというのが常だった。「どうせ駄目だろうけれど、一応電話しておこう…」という有様だったのだから。
  そして、今回は早稲田に関する朗報である。早稲田については、毎年、怪情報が飛び交う。「今年こそ昼間の学部で一般編入を実施するらしい…」という噂が、まことしやかに伝わってくる。これは早稲田での一般編入開始を待ち望む多くの受験生の声が産み出してきたものであろう。だが、噂は噂に過ぎないままだった。しかし、今回の商学部については、はっきりと大学に確認が取れているので、実施はまちがいない。
  もう一つ、早稲田について嬉しいことがある。毎年、8月に当校が実施している「大学編入フェア(大学が参加しての編入説明会)」に、今年初めて、早稲田大学が参加してくれることになったのだ。毎年のように声をかけてきて、やっと、努力が報われた感がある。今回参加するのは、編入に長い歴史を持つ第二文学部だが、手配は入試課である。これは大学側が編入に注目している表れと考えてよいだろう。当日、早稲田の方が驚くくらい、多くの学生が中ゼミに来てくれることを願っている。
  さて、なぜ、早稲田大学が編入に力を入れるようになってきたのか(もちろん、今まではそうではなかったということではないが、私から見ると変わってきたように思える)。これはあくまで風聞だが、早稲田は少子化による受験者の減少から一般入試による入学者のレベルが下がることを避けるために、今後何年かで一般入試での定員を現在の半分に減らし、他の試験制度に定員を振り分けることを計画しているという話がある。すでにAO入試などには力を入れて、勉学意欲の高い学生を入学させている。これが事実なら、一般編入の実施は商学部だけにとどまらず、順に他学部にも及ぶ可能性は充分ある。今後が楽しみである。
  しかし、いくら早慶で編入試験を実施しても、受験生が勉強に対する高い目的意識を持たず、ただ、早慶のネ?ムバリュ?だけに惹かれて受験を考えるようでは、大学側の編入への考え方も変わる可能性がある。一般入試で入学した学生とは異なるタイプの学生、研究に対する目的意識を持ち、編入後に真剣に学問に取り組む学生、もとからいる学生にとって刺激となる学生が大学では欲しいのだ。一般入試で失敗したからリベンジ!もよいのだが、それだけで終わらせず、早慶で何を学びたいのか、そもそも何故早慶なのか、しっかり考えて、勉強に対する意欲も持ってほしい。早慶が編入に力を入れれば入れるほど、受験生の姿勢にも、意識アップ、レベルアップが、望まれるのである。