法学は暗記も必要。でもそれだけではありません。

今回は編入に向けての勉強法です。われわれ講師目線の対策については、過去記事を見ていただければと思います。ただ、受験生・学生目線で対策について知ることも、それが自らの体験に基づくものであることから有用でしょう。今後も合格者に体験談を語っていただく機会には、こちらでアナウンスたします。

さて、法学は勉強すればするほど、暗記では済まないことに気づきます。法学の勉強と言えば、ともすれば、条文はもとより、法概念について暗記するものと誤解されがちです。法学の対策と言って、これらを記憶することと勘違いしている方もいるかもしれません。確かに、法学の勉強で記憶する作業は必要です。ただし、これは英単語を覚えるとか、数学の公式を覚えるとかと同じで、問題に答えるためには必要なことです。

しかし、英単語を暗記しておけば、英文を訳し内容が理解できるわけではないこと、公式を覚えておけば、計算の答えが出せるわけではないこともまた真なりです。問題と知識(記憶したこと)を適切に関連づけられない限り、問題に答えを与えることはできません。論述試験は、クイズではないからです。記憶したことを想起(思い出すこと)すれば答えられるわけではないのです

問題文を解釈した上で、そこでは何が求められているか理解し、それに応えるためには何についてどのように考えて論じなければいけないのか整理できなくてはいけません。そこには、記憶と想起だけではなく、理解、解釈、想起、再現などの要素も必要になります。要は、記憶することは問題に答えるための必要条件ですが、十分条件ではないということです

では、記憶と想起以外の要素はどのように鍛えることができるでしょうか?記憶と想起は自分一人でできますが、理解、解釈は、他人からの評価が必要になります。なぜなら、理解、解釈の正しさ(妥当性)が重要だからです。つまり、知識の運用能力です。編入試験が論述形式なのも、また、編入対策として答案練習をするもの、知識の運用能力が評価対象となるからです。この能力が高ければ高いほど、未知の問題に対しても答えを出すことができるでしょう。

事実に条文をそのままあてはめれば答えが出てくるほど、世の中は「単純」ではありません。事実を解釈し、法学的理解の下で法を解釈し、法的帰結を導き出すのです。それは記憶と想起では済まない作業です。このように、法学の学習においても暗記だけでは済まない要素があるのです。


新年度準備講座(2023年2月25日より全6回)「法学~入門編~」

編入対策の要は優先順位をつけることです

編入に向けて対策をする上で、何に最も注意しなければいけないでしょうか?

—―私は優先順位と答えています。

編入対策は短期勝負です。多くの受験生は、この時期から対策を始めて、早ければ9月に受験します(もっと早く実施されるところもあります。例えば群馬大学情報学部です。法学も勉強できる大学ですよ)。この点で、準備を始めてから本番までの期間がとても短いと言えるでしょう。

そうであるからこそ、「無駄」は省くべきなのです。たしかに、勉強する上で徒労はつきものだし、「無駄」だと思ったことが役に立つことは多々あります。むしろ人生を豊かにする「教養」とは、そのようなものかもしれません。

しかし、編入試験の「対策」を考えるのであれば、「何のための勉強なのか」自覚的になるべきです。英単語を覚えるのも、文法を勉強するのも、編入試験のためということです。法学や政治学の用語の定義を覚えるのも、答案構成を練習するのも、編入試験のためです。英語でコミュニケーションをとるためでも、『ハリーポッター』を原文で読むためでもありません。司法試験を受験するためでも、公務員になるためでもありません。編入試験のためです。

勉強の仕方も内容も、目的によって大きく異なります。なので、目的に合った勉強が必要なのです。しかも、短期勝負の編入試験です。目的を実現するために必要なことすべてを実行する時間的余裕はありません。そうであるなら、これまでに勉強してきたこと、これから勉強することの「優先順位」を考えて、優先度の高いことから実行していくことが必要でしょう。優先順位を考えずに、勉強すること自体が自己目的化すると、労多くして功少なしとなります。

何が必要で何を優先させなければいけないのか、自己目的化することのない編入対策をお考えの方は、お気軽にご相談ください。


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※過去の投稿を整理しました。あわせてご覧ください。

編入試験って何?③

前回は編入試験には専門性があるという話をしました。専門性があるものを受験するわけですから、まずは何を専門とするか、どの学部に編入したいかを定めた方がよいということも言いました。今回は、法学部ないしは法学・政治学を学べる学部への編入を考えた際に、どのような試験を受けるのかということについて書きたいと思います。

何が試験科目となるかは、大学によって異なります。英語の試験の有無、専門試験の傾向、志望理由書の提出の必要性と面接が課されるか否かなど、大学ごとに募集要項で示されます。まずは、英語試験についてですが、①英語試験が課されない、②英語試験に代わりに民間英語試験のスコア提出、③英語試験の受験というパターンに分かれます。法政治系編入の大学数では、ざっくりまとめると、①<②<③なので、英語試験を受けるつもりであれば受験できる大学も増えます。また、民間英語試験を受験してスコアを揃えておくと、さらに受験できる大学の幅は広がります。

専門試験については、傾向として、自説展開型知識吐出型に分かれること、そしてそれぞれの対策については以前に書きました。この二つに明確に分かれるわけではないので、両方の問題に対応できるようにすると受験大学の幅は広がるでしょう。対策なしに合格することは困難な試験です。対策をした大学を受験することで合格を目指します。また、試験傾向が変わることも多々あるので、どのような問題が出されても対応できるようにしておくのが基本でしょう

これらに加え面接が課される大学もあります。京都大学、大阪大学、北海道大学、神戸大学といった難関校は面接は課されませんが、他の多くの大学では面接があります。多くの場合、出願時に提出した志望理由書に基づいて面接が行われます。また、面接が課されなくても志望理由書の提出が必要な場合もあります。したがって、面接を意識した志望理由書の準備が必要となります。逆に、志望理由書の提出が求められることなく、面接試験が課される場合もあります。その場合であっても、志望理由をまとめたものを準備して、面接対策をしていきます。

このように編入試験では、英語試験と論文試験、志望理由書と面接などから合否が決まります。したがって、これらの準備をすることが編入試験対策となるのです。一般論ですが、様々なパターンに対応する準備をすればするほど、受験大学の幅も広がります。他方で、受験対策の負担は重くなるでしょう。編入試験では、初めは広く対策をしながら、志望校とともに、対策も徐々に絞っていくのが得策だと思います


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編入試験 論述対策(「知識吐出型」編)

今回は「知識吐出型」の論述試験対策について書いてみたいと思います。知識吐出型とは、自分の考えというよりも、問われていることに関する知識を正確に再現して説明していく問題です。したがって、法学や政治学に関する知識について、また、そこから導き出されることについて(学問的に)正確に説明する必要があります。

そのためには、当然のこととして、法学や政治学に関しての知識が必要となります。ただし、知識量や知識の正確さは、正しい答えを選択する多肢選択方式で計測されません。もちろん、神奈川大学の編入試験のような多肢選択方式の大学もありますし、金沢大学のように多肢選択方式の「法学検定」の合格が求められる大学もあります。しかし、ほとんどの大学では、論述方式で受験者の能力が計測されます。つまり、単に正確な知識があるだけでは不十分で、それを日本語の文章で伝達する力が必要となります。そこから、法学や政治学の正確な知識とそれを正確に伝達できる論述力が合格するカギになります

では、具体的にどのような知識が必要となるのでしょうか?編入試験の性格上、3年次編入であれば法学部2年生までに学習する知識が、2年次編入であれば法学部1年生で学習する知識が問われます。したがって、その範囲の知識をインプットすることが試験対策となります。

政治学では、政治権力や国家についての「政治思想や政治理論」、政党、圧力団体、マスメディアといった「政治主体や政治過程」、選挙制度、投票行動、政治意識といった「比較政治」などの知識をインプットできるとよいでしょう。他方、法学は基礎法学と法解釈学に大別されますが、法そのものを対象とする基礎法学全般、法解釈学では憲法、民法総則、刑法総論などが法学部2年次までに学習する内容になります。これらの全てを身に付けることは、短期間ではかなり困難なので、編入試験対策としては、これらのうち優先順位(出題頻度)の高いものを中心に勉強していくことになります。

さらに、これらの知識を理解して記憶するだけではなく、それらを再現し伝達できなければいけません。そのためには、これらの知識をつかって、一定のテーマで文章を書いてみる必要があります。この点が編入試験にとって特徴的な部分です。インプットだけでは論述対策は完結せず、実際に論述練習するというアウトプットが絶対的に必要になるのです。教科書を読んだり、講義を聴いたりしてインプットはできます。インプット自体も大変ですから、これで満足してしまいがちです。しかし、これだけでは試験対策にはなりません。インプットした知識を使って、一定のテーマで文章が論述できなければいけないのです。そのためには、とにかく論述練習することが大切です。この点は前回に説明した「自説展開型」にも当てはまります。

つまるところ、「知識吐出型」の論述試験対策としては、優先度の高い分野の知識のインプットとそれを使った論述練習が必要になるということです。


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編入試験 論述対策(「自説展開型」編)

多くの大学の編入試験で論述試験が課されることはご存じだと思います。では、論述試験のために何を準備すればよいのでしょうか?論述問題を求められる「答え」で分類すると、(呼び方は色々ありますが)自説展開型と知識吐出型に大きく分けられます。

自説展開型とは、最終的に自分の考えを展開することが求められる問題です。他方、知識吐出型とは、自分の考えというよりも、問われていることに関する知識を正確に再現して説明していく問題です。もちろん、両者は明確に線引きされるものではないし、両者が求められる場合もあります。だからこそ、はっきりしているのは、自説を展開し、知識を吐き出せるように準備すれば、受験校の幅が広がるということです。今回は自説展開型の論述試験対策について書いてみます。

自説展開型の論述試験で求められる「自説(自分の考え)」とは、法学、政治学分野に関連する「時事的な出来事」に対する、あるいは、法学、政治学分野に関する「課題文」に対する自らの見解です。このような問題に答えるためには、例えば、「成年年齢の引下げ」、「コロナ対策に伴う営業制限」など「時事的な出来事」について、それがどのような事象であるか、それに対して法学や政治学の観点からどのようなことが言えるのか、その是非、可否、適否などの見解を展開できるようになることが必要です。

時事的な出来事については、新聞などから日常的に情報収集するとよいでしょう。その際、紙媒体の新聞を読むことをお勧めします。情報収集ならばネット上のニュースサイトの方が手軽で情報量も多いのでよいかもしれません。しかし、どうしても自分の興味が向くニュースだけをクリックしがちです。法学、政治学的な重要性は、自分の興味と等価ではありません。この点で、紙媒体の新聞ぐらいの情報量が適当でしょう。興味の有無に関係なく、ニュースに触れ、それを知り、法学や政治学と関連づけながら自分の考えをまとめると、自説を展開する力になるはずです。可能であれば、それを友人や知人などの他者に批評してもらいましょう。

自説を展開する(自分の考えをまとめる)ポイントは、法学や政治学と関連付けることです。法学や政治学と関連付けられなければ、「感想」と変わらなくなるからです。編入試験で「感想」は求められていません。この点で、法学や政治学に関して一定の知識が必要となります(必要とされる知識の範囲と程度については次回に書きます)。

法学や政治学の著作や論文、新聞記事などの「課題文」に対しては、どのようにしたら自説展開できるようになるでしょうか?まずは、「課題文」の内容を正確に理解できなければいけません。そのためには、その「課題文」を理解するだけの読解力と知識が必要となります。読解力のためには、新書など比較的手軽に入手できる本を読むことをお勧めします。課題文は、法学や政治学に関する内容が、「硬い表現」で書かれています。そのような文章を理解するには、そのような文章に慣れることが必要です。内容を完全に理解するというよりも、まずは慣れることが大切です。難しく感じるでしょうが、丸山真男『日本の思想』、川島武宜『日本人の法意識』、渡辺洋三『法とは何か』、碧海純一『法と社会』などは、法学や政治学に関連し、硬い表現で書かれており、課題文として出題されたりもする本です。編入試験の直前期に、これらの本を読む時間的、精神的余裕はないでしょうから、今から手にとってみるとよいでしょう。

要は、新聞や新書などの活字に触れ、それらを読み、理解に努め、考えることが自説展開型の論述試験には有用であるということです。急がば回れ。(過去問を解く有用性は否定しませんが)過去問だけを解いていても必要な力はつかないでしょう。


新年度準備講座(2023年2月25日より全6回)「法学~入門編~」

まずは原理原則から始めよう!

こんにちは。

法学系への編入を考えたとき、まず何から手を付ければよいでしょうか?

法学の勉強というと条文とその解釈の仕方を覚えるものとイメージしがちです。これはある程度必要なことなのですが、これが法学学習の中心と考えてしまうと、ただ記憶するだけのつまらないものと思えるでしょう。

しかし、他の分野と同じように法学にも目的があります。それは「条文の記憶」ではなく、私たちが共に生きる(共生)ための仕組みを探求することです。人によって考え方は異なるし、生まれてきた境遇も違います。この点で私たちは多様なのですが、それにもかかわらず時代や場所にかかわりなく、私たちは社会の中で共に生きています。

法学は、この共生のための仕組みのうち「規範(ルール)」の役割に着目して、それを探求することを目的としています。先の条文やその解釈も、私たちが共生するために存在しています。つまり、私たちが個々人として尊重されつつも、共に生きていけるように規範を制定し、それらに矛盾が生じないように解釈するのです。

ただ、法学の学習を始めるにあたって、法律の条文やその解釈にいきなり飛びつくのは得策ではありません。その分量と際限のなさ(細かさ)に嫌になるのがオチで、法学学習が無味乾燥なものに思えるでしょう。では、何から勉強すればよいでしょうか。個々の条文や解釈といった「枝葉末節」ではなく、まずはそれらの要にある「原理原則の理解」から始めるのがおススメです。まずは全体像を理解して、その上で細かい事項を勉強していく方が、法学の迷宮に迷い込まずにすむということです。

「個人の尊重」「立憲主義」「契約自由の原則」「罪刑法定主義」など、法学には様々な原理原則があります。そして、この原理原則は、歴史の中で、私たちが共に生きていくために発展させてきた考え方です。法学学習の手始めとして、まずはこれら原理原則の背景や意義、具体的にどのように制度化されているかなどを理解してみるのはどうでしょうか。

しかも、これらは編入試験で説明を求められる事項でもあります。法学系の編入をお考えであれば、まずは「原理原則」から始めてみましょう!