過去問をどう使う?

夏期講習も終盤になり、編入試験本番に突入してきました。私の担当講座も終了し、久しぶりのブログ更新になります。

夏期講習では、北海道大学などの過去問を教材にして、解釈法学の「説明問題」や「事例問題」の解法手順や論述パターンについて解説しました。北海道大学、神戸大学、筑波大学、新潟大学、法政大学などでは解釈法学の知識が問われます。特に憲法や民法についての知識が必要とされる場合が多いので、過去問を使って必要とされる知識の範囲や程度を知り、答案練習をするというものでした。夏休み終盤、編入試験の直前期となるこの時期から、過去問に触れて、より実践的な答案練習ができるとよいのではないでしょうか。

編入試験対策として過去問に触れる目的は大きく2つあります。まず、編入対策を始めたあたりで、志望校の試験傾向や必要とされる知識を知るために過去問を利用します。どのような問題が出題されるのか、試験の形式、分量、内容や範囲を把握することが目的です。もちろん、勉強を始めたばかりでしょうから、過去問を解ける状態にはないと思います。しかし、敵を知らないと戦略も立てられないので、敵を知るための過去問の利用です。

もう一つは、今まさにこの時期から実践的な答案作成練習の「教材として過去問を利用」します。これまでの学習を踏まえて、実際に問題に解答してみることが目的です。ただし、「教材として利用する」といっても、2つの利用方法があります。ひとつは、実際の試験と同じように、時間を計測して、何も参考にせず、試験のように過去問を解くことで自分の実力を把握したり、試験に慣れたりするための利用です。「過去問を勉強する」といったら、このような利用方法が頭に浮かぶ人が多いのではないでしょうか。このような利用方法は、かなり学習が進んだ人、試験が目前の人に有効な利用方法です。

「教材として利用する」もう一方の方法は、文字通り、教材として利用する方法です。時間を気にせずに、様々なものを参考にしながら過去問を解きます。解答に必要な知識を学習しながら過去問を解くことで、知識を習得したり実践的な答案練習をしたりするための利用です。学習教材として過去問を解くという作業を通じて、現在の自分に足りない知識や能力を知ることができ、今後の学習内容を定めるのに有効な利用方法です。

8月下旬のこの時期に、みなさんにおすすめする過去問の利用方法は、最後に書いた「学習教材として過去問を解く」という利用方法です。編入対策は短期勝負であるからこそ、「知識の漏れ」が生まれがちです。それを過去問を通じて学習することで補充していきます。編入試験が近づいてくると焦ってしまいますが、まずは落ち着いて、自分に足りないものをひとつずつ補っていきましょう。過去問はそのための教材としてとても優れています。みなさんの学習内容に過去問演習を加えてみてはどうですか。


新年度準備講座(2023年2月25日より全6回)「法学~入門編~」

編入試験って何?②

前回、編入試験は、実施の有無や受験資格について個別性の強い試験であるということを書きました。今回は、受験資格を満たした上で、いざ編入試験を受けるにあたって、どのような試験が課されるのかということについてまとめたいと思います。

編入試験と通常の大学受験を比べたとき、特徴的なことは、個別性が強いという点とともに、専門性があるということです。専門性があるとは、課される試験が専門的であるということです。大学受験であれば、試験科目が大学によって異なるとしても、その内容は高校で勉強した内容です。理系と文系の違いはあれ、高校で勉強する事項は進学する学部に関係なく概ね同じです。実際、大学受験では、同一大学の異なる学部を複数受験することも行われています。行きたい大学の行ける学部に進学することは珍しくはないでしょう。

しかし、編入試験は専門性があるので、行きたい大学の行ける学部ではなく、行きたい学部のいける大学に進学するのが基本です。なぜなら、編入試験は、2年次編入であれば大学1年生までに、3年次編入であれば大学2年生までに学習する内容から出題されるからです。大学の中途年次に入学するわけですから、その年次までに学習している内容が理解できていないと、編入後の学習に支障をきたすので当然のことと言えます。したがって、法学部編入であれば、法学部1年生ないし2年生までに学習する内容から、経済学部編入であれば、経済学部で同様の内容から出題されます。

法学部で学ぶ専門科目と経済学部で学ぶ専門科目は当然違います。したがって、両者を合格レベルまで同時に勉強することは困難です。また、限られた労力を割くというのも戦略的に賢くありません。二兎を追う者は一兎をも得られないでしょう。ここから、編入試験では、まず編入したい学部(専門)を選択することが必要となります。今の大学と同じ学部(専門)を選択するのもよし、全く異なる学部(専門)を選択するのもよいでしょう。

同系統の学部の方が合格しやすいとは限りません。もちろん、同系統で編入を考えた方が、大学での専門授業を編入対策に生かすこともできるでしょう。他方で、志望理由書で編入する必要性を伝えることには難儀するかもしれません。「今の大学で勉強すればいいんじゃないの?」と聞かれたとき、「法律を学びたい」という思いは理由とはならないでしょうから返答に窮するかもしれません。むしろ、自分が勉強したいことで学部(専門)を決めた方が健全です。合格しやすい学部(専門)などないのですから。

半年とは言え、集中して編入対策をする際に、興味のないことを勉強するのはかなりの苦痛です。勉強を継続すること自体に困難を抱えることになるので、継続的に勉強できることを専門とする方がよいのではないでしょうか。とはいえ、自分の勉強したいことを限定しすぎるのも、可能性を自ら閉じることになります。「法学部」と呼ばれていなくても、法学や政治学を学べる学部は多々あります。例えば、小樽商科大学は商学部で、埼玉大学は経済学部で、筑波大学は社会学類で法学を勉強することができます。

なので、何学部に編入するかというよりも、どのような専門を勉強したいのかをはっきりさせるとよいでしょう。編入でまずはっきりすべきは、行きたい大学だけでなく、勉強したい専門です。長くなったので、次回に具体的な試験科目について書きたいと思います。


新年度準備講座(2023年2月25日より全6回)「法学~入門編~」

編入試験 論述対策(まとめ)

論述試験対策として、問題を自説展開型知識吐出型とに分けて説明しました。では、どのような大学が、どのような形で編入試験を実施しているでしょうか?

自説展開型の出題が多いのが、難関校では大阪大学名古屋大学(一次試験)北海道大学(2年次)など、広島大学などの中堅国公立大学です。このような大学では、課題文を読んだ後に、その内容の理解を測る問題とともに、それ関する自説(あなたの考え方)を展開させる問題が出題されます。したがって、課題文を読解する力、テーマに関して自説を展開する力が問われます。この点で、直接、知識をまとめて論述するというものではありません。ただし、課題文には法学、政治学に関するもの、広く社会科学全般に関するものが用いられるので、法学や政治学に関する知識があった方が正しく深く課題文を読解することができます。

他方で、知識吐出型の出題が多いのが、難関校では北海道大学(3年次)神戸大学(法学概論)筑波大学など、法政大学同志社大学などの私立大学です。このような大学では、法学や政治学の特定の事項について、その意義や定義、背景や内容の説明やそこから導き出されることの論述が求められます。したがって、法学や政治学の知識、その知識に基づいて導き出されることを正確に再現し、論述する力が問われます。この点で、知識がなければ合格はおぼつかないことになります。

以前も書きましたが、もちろん、このような分類は絶対的なものではありません。自説を展開するには知識が必要ですし、知識を再現してまとめるにしても、問題文を理解し、解釈し、解答として構成する力が必要となります。したがって、志望校によって程度の差はありますが、自説展開型と知識吐出型の両方の対策が必要でしょう

これまで3回にわたって編入試験における論述試験対策について書いてきました。読まれた方の中には、「とてもじゃないが書いてあることの全部は勉強できない」と思う人もいるでしょう。たしかにその通りです。特に編入試験は短期決戦です。また、編入試験の合否は、論述試験だけではなく、志望理由書や面接などの書類、外国語(英語)などと合わせて決まることはご存じのことと思います。もちろん、大学によってこれらのうちのどれが課されるのか、どの程度のウエイトで評価されるのかは異なります。そうであるからこそ、必要な対策のうちの何を優先して勉強するのかが大切になります

論述試験対策に限らず、編入試験では優先順位が大切です。時間や能力などが限られた下で、いかに合格に必要な学力に到達するか、常に優先順位を考えながら勉強していく必要があります。すべてを完全に勉強することが難しいのであれば、何をどの程度まで勉強すればよいのかを考えながら、学習計画を立てましょう。それに加えて、どんなに対策を知っていても、より重要なのはそれを実行することです。方法論はあくまで方法に過ぎず、目的を達成するためには、それを実行する必要があります。泳げるようになりたければ、泳ぎ方を知っているだけでは不十分です。むしろ、実際に繰り返し泳いでみることが必要です。


新年度準備講座(2023年2月25日より全6回)「法学~入門編~」